行進曲U

 

 

 空気がどこか湿り気を帯びている。ピラミッドという石造りの建物の中でも、夜気というものは存在しているのだろうか。だとしたら、これはきっとその名残なのだろう。ひやりとしたそれを頬に感じながら、ラーシャはそんなことに思いを巡らせていた。

いま、鏃のような陣形を取る三人を照らし出しているのは、頭上に浮かびながら円軌道を描くルアフの光だ。それを展開した本人、先頭に立つシリウスは片手に羊皮紙の地図を保持しながらよどみない足取りで先に進んでいく。その背後に続く二人――――もちろん彼女自身とアヤは、片手を軽くそれぞれの獲物にかけたまま、周囲の気配に気を配りながらどうにかシリウスの歩みに着いて行っていた。

ルアフの光が照らし出すのは、陣形の中心からおよそ半径十歩分。シリウスにしてみれば外敵を発見し選択肢を決定する、すなわち闘争か逃走かを考慮し決定するだけの十分な時間を確保できる距離なのだろう。

だがしかし、それは少年にとっての話で自分たちに当てはまることではない。そのことをラーシャはよく理解していた。この距離では、まだどうしても不安が残る。その危機感、否、恐怖感がラーシャとアヤの歩みを遅め、結果的に二人を導くシリウスの歩みまで遅めていた。

「大丈夫だよ」

 不意に、それまで緊張のあまり会話もなかった空間にシリウスの声が響いた。

「まだ浅いからね。ここにはそれほど強い魔物は住んじゃいないよ。

 せいぜい――――」

 少年の言葉を遮って、耳障りな羽音が闇の中から響いた。すでに何度か耳にしたその音にも、ラーシャとアヤはまたしても身体を強張らせてしまう。

 音の主は、ルアフの光が届かない空間からまっすぐに飛来した蝙蝠――――ファミリアだった。小さな身体に似合わず、その凶暴性や殺傷能力はお化け飛蝗(ロッカ)などを軽く凌駕する。

 しかも今回は、それが一度に三匹襲い掛かってきた。

 

 

 正確に言うなら、ラーシャにはそれしか確認できなかった。

 

 

 きぃ、という甲高い泣き声が聞こえたのとほぼ同時、べちゃ、なんていう鈍い音が耳に届く。小枝を折るような音も聞こえた。一度、二度、三度、四度、五度。

音の源は、壁や地面に叩きつけられたファミリアが潰れる、あるいは破裂する音だ。気が付けば、ルアフの領域に踏み込んだファミリアの数が残り一つになっている。

そしてそれも、すぐに消えた。

ひゅ、と風を切ったのは細長い白亜の杖。象牙のような質感をもったそれは、しかしそんな材質でできているわけではない。子供の小指ほどしか太さのないその先端を叩きつけられて、最後に生き残った蝙蝠は他のものと同じように地面に叩きつけられて、見るも無残な姿になる。

「――――ファミリアぐらいかな。そんなに緊張する必要もないよ」

 魔物たちを一瞬にしてただの死骸に変化させた聖職者は、笑みを浮かべたまま肩越しに振り返った。返り血ひとつ浴びないその姿は、逆に凄惨でさえある。

 シリウスのその言葉で、ラーシャは身体に走った緊張を抜いた。ふう、と息を吐くと一筋の汗が頬を伝って地面に落ちる。

 再び歩き出した少年の後を追い、彼女も足を動かした。もう慣れたわね、と胸中で一人呟く。

 ここに来て既に五度、いいや、いまのをいれて六度の襲撃があった。襲ってきたのは、もちろんこの場所に生息する魔物たちの中では唯一アクティヴであるファミリアだ。みな暗闇から姿をあらわし、敵意を剥き出しにして、僅か一瞬で屠られた。

 

 

 

 それは、無論。

 いうまでもなく、シリウスのその手によって。

 

 

 

シリウスが右手にゆるく握り締めたその杖を見ていたら、ぽつり、と言葉がもれる。

「……凄いわね、それ」

「ん? これ?」

 振り返ることもなく、シリウスは軽く右手を掲げた。

 見えていないのを承知の上で彼女は頷く。

「ええ。耳にはしたことがあったけど、実物を見るなんて初めて」

「俺もだな。というか、本当にあるんだな、そういうのって」

 言葉をはさんだのはアヤだった。二人の言葉に、シリウスは小さく苦笑を――――したかどうかはわからないが、そんな気配が伝わってきた。

「ま、確かに眉唾と取られても仕方ないか。

 でも、別段珍しいってわけでもないよ? ある程度の実力があって、あといろんな方面にコネがあれば手に入らないものじゃない」

 言いながら、シリウスは手のひらを中心に杖を回転させた。灰も似た色合いをするそれは、頭に拳大の重りのようなものを着いている。まるで小さなかぼちゃのようなそれの中心、つまり杖の先端には黄色い宝石のようなものが光っている。

 マイトスタッフ。シリウスはそれをそう呼んだ。

「けど、使うには勇気が必要だよ、これ」

「なんでだ?」

「これがどうやって作られるか、知ってるだろ? 千年を生きた妖木(ようぼく)、エルダーウィローの幹から削りだすんだ。ウィロー族っていうのはそもそも樹精霊(ドリアード)に属する生命体でね、その存在そのものが魔力の公式であり現象なのさ」

 ひょっとして、シリウスはこの手のうんちくを傾けるのが好きなのかもしれない。

 彼女にしてみれば果てしなく無縁なその解説を聞き流しながら、ラーシャはそんなことを考えていた。

「僕たちが生きるために食事を必要とするように、彼らも存在するために魔力を必要とする。普段在る際には世界に満ちるエレメントの類を吸収して、それから得た、正確には精製したってことになるんだけど、そのエネルギーを生態活動に当てているんだ。一番割り当てられるのは現実世界に「存在」するためのエネルギーだけどね。

 とにかく、そうやって生きているウィローは、死ねば当然その生きるためのシステムも崩壊して、現実世界に留まれなくなる。ウィローを倒すと、その死骸はしばらくして溶けるように消えるってこと、知ってるだろ?」

 その質問は、おそらくラーシャに当てられたものだろう。

だとしたら、非常に申し訳ないことだ。

「悪いけど、私は知らないわ。ウィローと戦ったことはないから」

「俺も」

 どうやらアヤも同じだったらしい。

二人の言葉に、シリウスは残念そうに肩をすくめた。

「それは残念。まあ、モロクやプロンテアの周辺は彼らの勢力範囲外だもんなぁ。仕方ないか。

 とにかく、彼らは消えてしまうんだ。それはエルダーウィローも同じ。

 ほら、ここで矛盾が生まれる」

 シリウスはぱちん、と指を弾いた。新しい光球が生み出され、頭上に浮かび上がる。新入りのそれが、先に生み出されていたそれと同じように円軌道を描くのを確認して、彼は先を続けた。

「エルダーウィローの遺体は、すぐさまこの世界から消えてしまう。されど、このマイトスタッフは彼らの幹から削りだしたものだ。

 どういうことか? 答えは単純。マイトスタッフの原料として足りうるのは、それが千年を経過したものだけに限られるからさ」

 ひゅっ、と、二つあった光球のうち先に生み出されたひとつが、ろうそくの炎の消えるさまと同じように掻き消える。

 考えれば、ここに踏み込んで割と長い間を歩きつづけている。暗所、そして閉鎖空間であるということが距離感を狂わせるが、既にピラミッドの外周を一回りするくらいは歩いているだろう。

それだけ時間がたてば、一つ目のルアフが消えるのも道理のように思えた。

「正確に言うなら、千年を経ったヤツでないと幹を残せない、ってことになる。

 僕らが死んだその数年後に骨だけが残るように、彼らも現実世界で命絶えた跡もこの世界に残すものがあるんだ。それはね、彼らが生態活動をする際に生み出された不純物。魔力を吸収しエネルギーに変換するという作業の途中で、僅かに生み出された生成物なのさ。

 魔力はあくまでエネルギーであり、物質ではない。けれど魔力で生きる彼らは紛れもない物質だ。つまり、吸収した魔力を物質化させているんだよ。結晶と言い換えてもいい。エルダーウィローがこの世界に在る過程で精製したその結晶は、その固体が死んだ後も現実世界に残留するんだ。それを削り、杖の形にしたのがこれなのさ」

 ぶん、とシリウスが手にした杖を空中で一閃させた。

そのとき――――果たして気のせいか。杖自体が青白く光を発し、僅かな燐光が軌跡を残す。

「問題点は、まさにそこ。これはあくまでエルダーウィローの残した体の一部であり、正確に言うならエネルギー精製システムの名残ということになる。如何なる種類の水溶液にしたって、結晶は飽和地点でなければ精製されないからね。一番魔力濃度が濃い場所といえば、そのシステムの周辺になる。

 これはね、ある意味彼らの消化吸収器官なのさ。

魔力を吸収し、その代価にエネルギーを精製する。それを利用して、どんな扱い手が使っても強大な破壊力を生み出すことのできる杖、それがマイトスタッフ。だけど同時に、これを使う人間はその破壊力の代償として、自分の持つ魔力を消費しなければならない。使うのに勇気がいるって言ったのは、そういうこと。生半可な腕しか持たないヤツがこれを握れば、その瞬間に全ての魔力を吸い取られて絶命しちゃうからね」

柔らかな声で、とんでもないことを告げるシリウス。

一瞬思考し、その意味を理解したラーシャはげっそりとした声で呟いた。

「そんなもの、よく持っていられるわね」

「まあ、普段は自分の魔力を制御してこれに流れ込まないようにしているからね。

 ――――――――っと。ごめん、おしゃべりはここまでみたいだ」

 少年はそう言って、空いた左手を二人の前に掲げた。止まれ、の合図だ。

「どうした?」

「比較的安全な場所は通り過ぎたよ、ってこと。気付かない? 空気の、違いに」

 アヤの言葉に、シリウスはそう答える。

 そして、彼女は気が付いた。自分たちを取り巻く環境の変化に。

 左右の壁はいつのまにか姿を消していて、そこには全てを拒むような闇が淀んでいる。広場のような場所に出たのだろうか。闇のその向こう、光の届かぬその場所に幾多もの気配を感じながら、彼女は身体を硬くした。

「一階、二階って俗に言うけど、別に階段みたいなものがあるわけじゃないのさ。通路は全てが緩やかなスラロープで、言ってしまえば全部が階段みたいなものだから」

 少年の言葉にも、僅かながらに緊張が走る。左手をどけたシリウスは、指を一度弾いた。とたん、周囲の明るさが増す。光の領域が広がる。一瞬目がくらんだが、すぐに世界は彩りを取り戻した。

 光量を増したルアフを頭上に浮かべながら、シリウスはゆっくりとこちらを振り返る。

「二人とも、まずは小手調べと行こうじゃないか―――――囲まれてるよ」

「……!?」

 ラーシャと、アヤが息を呑むのとほぼ同時。

 可視の世界に、何体もの腐肉を垂らした生ける屍が姿を表した。

 

 

 

 

 

 その姿を認めた瞬間に、ラーシャは軽くその場を飛びのいて腰の鞘から剣を引き抜いた。銀の煌きを持つその刀身に、ルアフの光を受けてか、青白い細かな文字が浮かびだす。

(一、二、三、四――――)

 背中をシリウスたちに向け、自分は外周から迫り来る敵たち……ゾンビに注意を向ける。背中を預けた二人も既に動き出していたが、闇に背を向けて戦うよりはましだ。常にルアフが照りだす円の中心に位置し、周囲に向かって戦うこと。それも、シリウスから教わった術だった。

 軽く首を巡らせて、自分たちに迫り来る脅威を確認する。ゾンビが計六体。闇の中にはそれを軽く上回る数の気配が存在するが、とりあえずこちらに襲いかかろうという意思はないらしい。もっとも、注意を怠るつもりは毛頭ないが。

 ラーシャは剣を腰に添える独特の構えをとりながら、自分に歩み寄る一体のゾンビを注視していた。先ほど見たところによれば、六体のうち四体がシリウスに、残りの二体がそれぞれアヤと自分に向かっているようだ。どうやら彼らの腐敗した脳髄にも、この中で誰が一番危険なのかは理解できるらしい。

 そんな皮肉を考えていると、いつのまにか目の前に来ていたゾンビが腕を振り上げていた。一瞬、躊躇する。剣で受け止めるべきかそれとも跳んで回避すべきか――――

 結論を刹那の間に導いて、彼女はその場を横に飛んだ。対象を失ったゾンビの腕が間抜けにも空を裂いて、勢いがあまったのか自分のわき腹に突き刺さる。しかし第二間接まで突き刺さった指を何事もなかったかのように引き抜くと、彼はゆっくりと首を巡らせ、こちらを見つけた。

 一歩を踏み出して、ぞり、と何かがこそげ落ちる。

 それを見つめて、ラーシャは喉の奥からこみ上げる吐き気を感じた。地面に落ちたのは、ゾンビの頭皮に張り付いていた肉の一部。もはや紫色をしたそれは地面に落ちると正体のわからない粘液質の液体を周囲にばら撒き、即座に集ってきたゴキブリたちの群がる餌と化す。

 あまりに、あまりに常識を逸脱したその光景に、彼女は恐怖から来る戦慄を感じた。

(落ち着きなさい――――)

 息を吐き、肩に走った力を抜く。あくまで自然体。腕力を期待できない女性に生まれてしまった以上、無意味に力をつけるのは得策ではない。それよりかはむしろ、女性という体が持つ柔らかさを最大限に生かした速さの剣術を学べばいい。活かせばいい。それが、まず最初に祖父から教わったことだった。

 身体を揺らしながら、一歩一歩間合いに近づく死者の姿を見据える。

 踏み込み、腰の捻りを開放し、剣を振るったときにその刀身の腹より少し先が相手の身体を捉える間隔、それが彼女の持つ必殺の間合いだ。

 その距離まで、あと三歩。

 ゾンビを見据えるラーシャの瞳に、余念はない。準備は整った。

 残り二歩。

 自分の鼓動を感じながら、ふと、疑問を抱く。その距離は正確か? 最後にそれを試したのはいつのことだ? それから自分の体がどう変化したのか、おまえは正確に理解しているのか?

(――――!)

 彼女の顔に、あせりが浮かぶ。まずい、と思った。恐怖が理性を覆おうとする最悪のパターンだ。戦闘においてまず何より必要なのは、自分の決断を信じることだという祖父の言葉にも反してしまう。

しかし一度抱いたその疑問は恐怖という最高の燃焼材を手に入れて、意識の中で激しさを増していった。

 あと一歩。

 その瞬間、ラーシャは左足のばねを爆発させて一気に距離を詰めていた。

 その引き金を引いたのは、意識の中で最高潮に達した恐怖だということは簡単に予想がついた。

(早い――――!)

 刹那、絶望的にそう思う。泣いてしまいたいぐらいだ。

 あまりに遠いことが、踏み出した瞬間彼女にはわかった。たとえこの数ヶ月で自分がどれだけ成長していようとも、一歩分の空間が埋まるわけではない。この斬撃は相手の目前をただ横に過ぎるだけだ。よくても、相手の顔を掠める程度だろう。

 でも、それでは駄目なのだ。死んだ肉体に周囲の亡霊が取り付き意思も知能も持たない低級生物へと堕落した彼らに、痛みという概念は存在しない。多少の手傷なんて、まるで意味がない。彼らを先頭不能にするには、その運動神経をつかさどる頭を破壊するか、生物的に活動不可能な状態にしてしまえばいい。身体を四つに切り裂くとか。

 左足で跳び、かつ、左足で着地する。そうすることによって更なる踏み込みが可能なのだ。二度目の踏み込み。そしてその慣性を消さぬまま、既に十分捻っていた腰を開放して遠心力を上乗せした残撃を放つ。無駄だとわかっていても、今更攻撃を止めることなんてできはしない。せめて、最後まで続けるだけだ。

 ぶん、と刀身が風を切り、その切っ先が相手の――――鼻をかすめ、おそらく、そこを砕いた。

 ふと、ラーシャは思い出す。自分の武器も新しくなっていたことを。以前の剣で算出した距離は、この剣には少々物足りなかったようだ。

 もっとも、だからといって状況が打開されるわけでもない。ゾンビは、鼻を砕かれた程度でその活動を止めはしない。

案の定、何事もなかったかのようにゾンビは歩を進め、既に近づいていたその間合いを更に縮める。最悪ね、とラーシャは絶望的に考えた。剣を振り終わった自分の体は、体勢が整えられないぐらいに崩れている。いまから剣を振りなおしても、その前にゾンビの拳が、あるいは歯が彼女の無防備な首筋に喰らい着くだろう。

絶望のあとにきたのは、脱力だった。目を閉じることすら忘れて、地面に映った影に視線を落とす。

影絵の死者は、その腕を翼のように広げ、こちらを抱きしめようとする形を取った。それは無論、抱擁などではなく、獲物を逃さないための束縛の動きだ。

彼女は――――あっさりと、諦めを受け入れた。

 

 

 

 

 と。

「八十点ってところかな―――――――」

 不意に、そんな柔らかな声が耳に届く。一瞬なんだかわからずに、そして刹那に怒りさえ覚えた。人が死にかけているというのに、そのいつもと変わらぬ声は何だと言うの、と。

 地面の影に、新たな三つ目が加わる。細長い棒を携えた彼は一息にその棒でゾンビの頭部を横から殴り、それを砕いた。

 鼻腔に届いたのは、腐敗臭。

 彼女は顔を上げる。果てしない希望と、喜びの下に。

「まだちょっと、荷が重かったみたいだね」

 アコライトの少年はそう言って、ただ立ち尽くすだけの死者の身体を闇の彼方に蹴飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の戦闘は、いつのまにか終わっていたらしい。

 僅かにゾンビの体液を付着させてしまったラーシャは、シリウスの差し出したハンカチでそれを丁寧に拭い去る。それでも僅かに匂いが残ってしまった。

「戻ったら、まず水浴びかな」

 返された布切れを苦笑にも似た笑みで受け取りながら、シリウスはそんなことを言った。

 ラーシャはそんな軽口に答える気力も無くして、その場に座り込んだ。剣を支えに、倒れこまなかっただけでも上出来といえるだろう。緊張が解ければ、体が忘れていた発汗機能を存分に発揮する。頬を伝う幾条もの汗を感じながら、彼女はハンカチを返すのはまだ早かったわね、と胸中でひとりごちた。

「おいおい、大丈夫か?」

 少し離れたところに腰をおろしたアヤが、そう言って首だけを彼女のほうに向けた。しかしラーシャはそれに答える余裕もなく、ただ肩で息を吐きつづける。

「だから言ったじゃねえか、生半可な腕でここに入っても死ぬだけだって」

「……君もあんまり人のこと言えないと思うよ? 実力はともかく、あれだけの戦闘で腰を抜かしてたらこの先たまったものじゃないから」

 アヤの言葉を軽く嗜め、シリウスもその場に腰を下ろした。座った位置が、ちょうど三角形の頂点となる。

 シリウスは――――やはり、というかなんと言うか、疲れも何も感じさせない少年は消沈する二人を交互に眺め、苦笑交じりに提案した。

「ここらへんで、少し休憩といこうか。外はそろそろお昼だろうから」

 ラーシャも、アヤも、その言葉を拒むだけの余裕は持ち合わせていなかった。